IoT時代の配線革命!ワイヤレス給電は電気工事士の仕事を奪うのか?

IoT時代の配線革命!ワイヤレス給電は電気工事士の仕事を奪うのか?

2025/12/17

投稿者:elecareer_staff

近年、「ワイヤレス給電」技術が進化し、スマートフォンだけでなく、家庭内の家電やセンサーへの電力供給が、ケーブルなしで可能になる未来が囁かれ始めています。「配線工事が不要になれば、電気工事士の仕事はなくなるのではないか?」――これは、技術者や転職希望者にとって、無視できない大きな不安かもしれません。しかし、結論から言えば、ワイヤレス給電の普及は、私たちの仕事を奪うどころか、より高度で専門的な新しい仕事を生み出すチャンスとなります。

特に、第二種電気工事士の資格取得を目指す方や、現場経験の浅い若手技術者にとっては、目の前の仕事が将来なくなるかもしれないという不安は、キャリア形成の大きな足枷になりかねません。しかし、私たち電気設備業界のプロは、技術の進化を恐れるのではなく、その本質を理解し、新しい価値をどう生み出すかを考えるべきです。ワイヤレス給電が解決するのは「末端のケーブル問題」であり、「電力インフラの設計・構築」という根幹の部分は、より一層重要になるからです。

今回は、ワイヤレス給電の現状と、それが電気工事士の仕事に何をもたらすのかを、技術的な視点から冷静に分析します。

 

 

 

1. ワイヤレス給電の「原理」と「技術的な限界」

ワイヤレス給電技術は非常に魅力的ですが、その原理と技術的な限界を知ることで、すべての配線工事が不要になるわけではないことが分かります。

 

  • 非接触給電の基本的な仕組み

ワイヤレス給電の主流は「電磁誘導方式」や「磁界共鳴方式」です。これらは、送電側と受電側の間に専用のコイルやアンテナが必要であり、効率良く電力を送れる距離には限界があります。壁や床を隔てて家全体に大電力を送ることは、現在の技術では難しく、特にエアコンやIHクッキングヒーターといった大容量の電力が必要な機器への供給は、しばらく有線配線に頼らざるを得ません。

 

  • 高出力・長距離への挑戦と現状の課題

実際、数W程度のスマートフォンや小型センサーへの給電は実用化されつつありますが、家庭用エアコン(数kW)や電気自動車(数十kW)へのワイヤレス給電は、電力損失(効率)と発熱の課題が大きく、特に高出力では有線接続の優位性は揺るぎません。高出力ワイヤレス給電の実用化には、冷却機構の設計や、電力損失を最小限に抑えるためのコイル・共振器の配置技術など、これまでの電気工事にはなかった熱マネジメントの知識が不可欠になります。これは、新しい設計施工のスキルとして、工事士の付加価値を高める要素です。

 

  • 「アンテナ(インフラ)」設置の必要性

ワイヤレス給電を家中に張り巡らせるには、壁や天井の内部に「送電アンテナ」や「共鳴モジュール」といった、新たな給電インフラの設置が必要です。この新しいインフラの設置や配線こそが、まさに電気工事士の新しい仕事となります。単なるケーブル敷設ではなく、電波干渉や効率を考慮した「電力の設計と設置」という高度な知識が求められます。

 

 

 

2. 専門性が高まる「電力マネジメント」業務

ワイヤレス給電の普及は、電気工事士の業務を「物理的な配線作業」から「電力のデジタル管理」へとシフトさせます。

 

  • エネルギー・マネジメントの高度化

ワイヤレスで動く多数のIoT機器やセンサーを効率よく管理するには、どの機器に、いつ、どれだけの電力を供給するかを制御するHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)やBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)の構築が不可欠です。ワイヤレス技術に精通した電気工事士は、これらのシステムを設計・構築・運用する「エネルギーコンサルタント」としての役割を担うことになります。

 

  • VPP(仮想発電所)とスマートグリッドへの貢献

ワイヤレス給電で電力供給が細分化されると、各機器の消費電力をリアルタイムで把握・制御するHEMS/BEMSの役割がさらに重要になります。将来的に、住宅の蓄電池や電気自動車と連携し、電力の需給調整に貢献するVPP(バーチャルパワープラント:仮想発電所)の構築が加速すると予想されます。ワイヤレス技術に精通した電気工事士は、単なる配線ではなく、「データで電力の流れを最適化するシステム」の構築者として、社会的なインフラ構築の一翼を担うことになります。これは、従来の技能に加え、情報処理能力とネットワーク知識が求められる、より高度な仕事です。

 

  • ノイズ対策と通信の専門性

電波を使って電力を送るワイヤレス給電は、同時に他の無線通信(Wi-FiBluetoothなど)への電磁ノイズ干渉を引き起こす可能性があります。電気工事士は、電力と通信の両方の知識を持ち、ノイズを最小限に抑え、安全かつ快適な通信環境を確保するための「電磁環境設計」という新しい専門性を求められることになります。

 

 

 

3. ワイヤレス技術は「有線インフラ」の上に成り立つ

どれほどワイヤレス技術が進化しても、その大元となる電力系統、つまり電柱から建物内部の分電盤までは、必ず有線インフラが必要です。

 

  • 基幹配線工事の恒久的な需要

発電所から電力を運び、建物全体に分配するための基幹的な配線、受変電設備の設置、分電盤の設置といった根幹の工事は、ワイヤレス技術では代替できません。むしろ、家庭で使う電気の総量が増えるほど、この基幹インフラ工事の重要性と難易度は高まります。

 

  • 設置からメンテナンスへのシフト

ワイヤレス給電システムは、設置後のメンテナンスやトラブルシューティングが、有線システムよりも複雑になります。見えない電波やノイズが原因のトラブルに対応するには、専門的な測定器を使いこなし、理論に基づいた診断と修理ができる高度なスキルを持つ技術者が不可欠です。

 

 

 

まとめ

ワイヤレス給電技術は、電気工事士の仕事を奪う「敵」ではなく、新しい付加価値を生み出す「パートナー」です。私たちの仕事は、単なる配線屋から、新しい電力インフラとデジタル技術を融合させる「エネルギーイノベーター」へと進化します。この技術の進化を恐れるのではなく、新しい知識を積極的に学び、将来の仕事の幅を広げるチャンスと捉えることが、これからの電気工事士に求められる姿勢です。

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