12月5日は国際ボランティア・デー:災害現場を支える電気設備技術
2025/12/05
投稿者:elecareer_staff
12月5日は「国際ボランティア・デー」。国連が定めたこの日は、世界中で社会貢献活動が行われます。日本では、災害発生時にボランティアが地域の安全と生活を支えることが広く知られていますが、電気設備分野のボランティア活動はあまり知られていません。
地震・台風・豪雨などで停電が発生すると、避難所での生活や医療機器の稼働、通信網の維持に支障が出ます。そんな時、電気設備の専門知識を持つボランティアは、現場の「ライフライン」を守る重要な存在です。今回は災害現場での電気ボランティアの役割と現場のリアルを紹介します。
1. 災害時の電気設備 ― “命をつなぐライフライン”
災害が発生すると、最も早く復旧が求められるのは電力です。避難所では照明・暖房・通信・医療機器が電力に依存しています。
- 避難所の電源確保
電気ボランティアは、仮設分電盤や発電機を設置し、避難所内に安定した電源を供給します。この作業は、既存のコンセントを使わず、安全かつ公平に電力を分配するための「一時的な電気回路の構築」であり、電気工事士の専門性が最も活かされます。大型発電機だけでなく、UPS(無停電電源装置)やポータブル電源も活用されます。
- 仮設分電盤設置のリアルと専門性
災害で建物自体が被災している場合、既存の電気配線は断線や漏電の危険性が高く、そのまま使用することはできません。電気工事士は、電源ルートを慎重に選定し、絶縁抵抗測定を行いながら、安全な場所に仮設分電盤を設置します。この作業では、適切な電線の太さや保護装置(ブレーカー)を選定し、接続箇所を確実に絶縁する必要があります。また、避難所では、スマートフォン充電用から、電動車いす、医療機器など、多種多様な電力ニーズが発生します。公平かつ安全に電力を供給するため、需要を見積もり、容量オーバーを防ぐ計算力と判断力がプロには求められます。
- 照明・暖房・通信の維持
暗闇や低温下では人々の不安が増します。電気ボランティアは、必要な箇所に安全に電力を届けることで、避難者の安全と安心を支えます。
- 医療機器の稼働
電動ベッド、人工呼吸器、インシュリン冷蔵庫など、医療機器の稼働には安定した電源が欠かせません。停電時のバックアップ体制は人命に直結する課題であり、命を守る重要なポイントです。電気ボランティアは、医療ニーズが高いエリアの電源を優先的に確保・診断します。
このように、災害時の電気は「生きるためのインフラ」といえます。
2. ボランティアに求められる技術と準備
災害現場での電気支援は、専門技術と十分な準備が必要です。
- 資格と技術
電気工事士、そして電験資格者(電気主任技術者)は即戦力として活躍できます。特に高圧設備や発電機の操作は資格者でないと扱えません。高圧設備を持つ病院や工場などの自家用電気工作物の初期復旧点検・安全確認には、電験資格者が不可欠です。また、発電機の操作だけでなく、燃料管理や負荷運転の知識も求められます。
- 持参する装備
絶縁工具、延長コード、防水型照明、簡易照明器具など、現場で即使える装備が必須です。これらに加え、二次災害を防ぐためのテスター(測定器)や、ヘルメット、安全靴、高視認性ベストといった安全保護具も、自己防衛のために極めて重要です。
- 二次災害防止のための安全管理の徹底
災害現場での作業において、最も重要なのは二次災害の防止です。特に水害が発生した後、浸水した電気設備は絶縁状態が悪化し、漏電・感電・火災のリスクが極めて高くなります。電気ボランティアは、安易に通電を試みるのではなく、必ずテスターやメガー(絶縁抵抗計)を用いて入念な診断を行います。わずかな配線の損傷でも大きな事故につながるため、「安全が確保されるまで絶対に電力を供給しない」というプロとしての厳格な判断基準と、測定器の適切な使用方法に関する知識が命を守ります。自己の安全確保と、避難者の安全を守るための判断力こそが、ボランティアに求められる最重要スキルです。
- 現場連携
自治体やNPO、消防・自衛隊との連携が不可欠。電気ボランティアの電力供給計画や設置場所の調整も重要な役割ですが、最も初動で求められるのは、損傷状況の迅速な調査・診断(アセスメント)を行い、その情報を電力会社や行政と共有することです。
- 現場における情報共有の具体例
アセスメントで得られた情報は、その後の本格的なインフラ復旧計画の基礎となります。具体的には、「どの変圧器が浸水したか」「どの範囲の配線が断線しているか」「即座に稼働させるべき重要施設(医療機関など)はどこか」といった情報を、統一されたフォーマット(例:地図上に損傷レベルを色分けするなど)で正確に行政や電力会社に共有する必要があります。個人レベルでの善意の活動であっても、現場では組織的な動きが求められ、技術的な知識に加え、他者と連携するコミュニケーション能力が不可欠です。
災害現場は予測不可能な状況が多く、臨機応変に対応できる技術と経験が求められます。
3. 技術者としての社会的使命
電気設備の専門知識を持つ人材は限られています。だからこそ、ボランティアとしての活動は社会的使命とも言えます。
- 地域インフラのサポート
災害時だけでなく、地域の防災訓練への参加や避難所設営時の電源整備など、日常から役立つ場面は多いです。平時の予防保全活動も、ボランティアの重要な役割の一つです。
- 若手技術者の学び
現場では実際の設備構成や安全対策を体験でき、教科書では学べないリアルなスキルが身につきます。
- 社会貢献とキャリア形成の両立
ボランティア経験は履歴書にも活かせるほか、業界内のネットワーク形成にもつながります。
- 転職・キャリアアップへの具体的な影響
災害現場でのボランティア経験は、単なる社会貢献活動という枠を超え、技術者としての高い資質を証明する具体的な実績となります。特に、「極限状態での問題解決能力」「迅速な状況判断力」「計画外のトラブルへの対応力」「多職種連携を円滑にするコミュニケーション能力」は、通常の業務ではなかなか証明しにくいスキルです。施設管理、メンテナンス、または電気主任技術者(電験)を募集する企業は、こうした現場で培われた実践的な経験とプレッシャー耐性を高く評価する傾向にあります。自身の知識と技術が、人命や社会の維持に直結する状況を経験することで、技術者としての自信と責任感も大きく向上し、キャリアアップの強力な後押しとなるでしょう。
技術者としての知識を活かし、社会に貢献できるのが電気設備分野のボランティアの魅力です。
まとめ
国際ボランティア・デーをきっかけに、災害現場での電気ボランティアの役割を振り返りました。
- 電気は避難所の“命綱”である
- 高度な資格や技術が安全な供給を支える
- ボランティア経験は技術者としての成長にもつながる
電気設備技術者の力は、目に見えないところで社会を守っています。この日を機に、災害時の電気の大切さに目を向けてみてはいかがでしょうか。